『会計の世界史』 田中靖浩 ④

19世紀初めの鉄道会社からはじまったキャッシュから利益への進化が、

200年ぶりにキャッシュへ回帰しているのです。

 

発生主義の名のもと、どんどん難しく、ややこしくしていった利益を、

久しぶりに家計簿的なものに戻そうとする会計の原点回帰がキャッシュ・フロー計算書だということです。

 

鉄道・銃・コルネット-この3つがアメリカを世界の主役へと導きます。

 

1869年5月10日。

アメリカ国民が待ちに待った大陸横断鉄道がとうとう開通するというのです。

鉄道の本家イギリスはじめヨーロッパでは決してお目にかかれない長距離鉄道の完成です。

 

イギリスの鉄道は直線が多く、アメリカの鉄道は曲がりくねって進むのです。

どうやらそのちがいは、人件費と土地代のコスト構造によるものでした。

 

19世紀の末、アメリカの鉄道会社にて初めて「連結決算」が登場しました。

連結とはその言葉からしてすでに鉄道の香りが漂っていますが、本当に鉄道会社からはじまっていたのです。

 

 

分けることで、分かるようになる。

 

製造現場からはじまった革新は工場の原価計算(Cost Accounting)の改革を経て、

管理会計(Management Accounting)という新ジャンルを誕生させます。

 

もともと中世イタリアにおいて「自分のため」に行われた会計は、

東インド会社のオランダ、産業革命のイギリス、投資家保護のアメリカへ進むにつれ、

「他人のため」に行なわれるようになっていきました。

これをいまいちど「自分のため」に引き戻そうというのが管理会計です。

 

こうして電信会社と鉄道会社でしっかりと経験を積んで勉強したアンディー少年はアメリカを代表する鉄鋼王に成長します。

 

素人でも大量生産ができる工場

 

こうしてヨーロッパ工房的な「熟練の職人が1人でつくり上げる」スタイルではなく、

「複数の作業工が流れ作業を行う」アメリカンスタイルの工場が誕生していきます。

 

分業と作業の標準化によって大量生産を行うシステム

 

流れ作業・作業の標準化・互換部品性・機械化

 

素人でも高品質の製品を大量生産できるアメリカン・システム

 

外部との取引を記録することから一歩進んで、

原価計算という内部の「製品原価」計算するようになった会計の仕組み。

外部記録から内部計算へ-この原価計算は会計の歴史にとって大きなターニングポイントになりました。

ここから企業会計は外部報告の財務会計と内部利用の管理会計の2本立てになっていきます。

 

ブームへ急ぐのではなく、

そこで一呼吸おいて儲ける方法を考える-どうやらこれが商売を成功させる秘訣のようです。

 

石油精製の事業で成功したロックフェラーは、すぐさま100か所を超える精製所を買収していきます。

価格競争を避けるには、ライバルを潰すのがもっとも手っ取り早い方法です。

ロックフェラーの買収はライバルを買収する水平的統合からはじまりました。

水平的統合は販売価格をコントロールするには一番の方法です。

それが一段落つくと、次に彼は下流の販売会社などを買収する垂直的統合へ乗り出しました。

こちらの垂直的統合では上流から下流までを支配しつつ、コストを下げることに主眼が置かれます。

垂直的統合でライバルを潰しつつ、垂直的統合でグループ全体のコストを引き下げる。

 

 

同じころ、ロックフェラーのほかに買収王として名をはせた人物がJ・P・モルガンです。

彼は経営難に陥った鉄道会社を狙い撃ちしました。

イギリス資本をバックにつけた銀行家J・P・モルガンは、ずさんな計画や経営によって経営難に陥った鉄道会社を次々と買収します。

所有権を握りつつ経営再建させるその手法はいつしか「モルガニゼーション」と呼ばれるようになりました。