『会計の世界史』 田中靖浩 ①

五線譜が「メロディー」というカタチのないものを可視化する技術なら、

簿記は「儲け」というつかみどころのないものを可視化する技術です。

メロディーを記録できる五線譜によって音楽が発展し、

簿記によって商売がやりやすくなったことはまちがいありません。

 

科学が発展しはじめた時期に「魔女狩り」が増えているのです。

 

ともかく魔女狩りのような神秘主義を内側に残しつつ、

神の時代から人間の時代への歩みは、ゆっくり確実に進みました。

 

そして、ルカ・パチョーリの「スンマ」が世に出たのと同じころ、

数量革命を背景に「世界の歴史」を大きく変えてしまったのが

「インド航路の発見」です。

 

とくにオランダに多かったカルヴァン派では、

「神が与えたもうた職業に励むこと」が救済への道だとされており、

「商売に励み、儲けること」は奨励される行為なのです。

 

商売好きのプロテスタントが集まったオランダは、

他の宗教についても比較的寛容な態度をとりました。

そのためオランダには他宗教の商売好きも集まります。

そこにはユダヤ人の姿もありました。

宗教に対する寛容さは、金儲けを追求する合理的精神の裏返しでもありました。

 

減価償却」の登場は会計の歴史にとって画期的な出来事です。

それは絵画界における「写真」の登場に匹敵するほどに。

 

なぜなら減価償却の誕生によって、会計上の儲けは収支から離れ、

「利益」というかたちで計算されるようになったからです。

 

もともと会計は「お金の計算」からはじまっています。

なんだかんだ言っても会計はゼニ勘定が原点なのです。

それは「収入-支出=収支」が儲けの計算の基本であるということです。

 

その収支計算から離れ、儲けの計算が「収益-費用=利益」という小難しい体系へ

「進化」するキッカケは、鉄道会社による減価償却の採用だったように思います。

 

産業革命による固定資産の増加⇒減価償却の登場⇒利益計算の登場

 

減価償却ができるなら、

「将来の支出を前倒しして数期の費用に配分する」こともできるはず(=引当金)。

あるいは、前払費用、未収収益といった、

「収入・支出」を「収益・費用」へ配分する計算も行うべきではないか。

長期工事で受け取る「将来の収入」を前の期間に収益として配分する

工事進行基準だって認められるぞ。

こうした利益の進化は止まることなく、

のちの世に登場する時価会計や減損会計まで突っ走っていきます。

 

こうした収支から利益への進化を

「現金主義会計から発生主義会計への移行」といいます。

 

現金主義会計:収入-支出=純収入

発生主義会計:収益-費用=利益

 

21世紀の現在、儲けの計算は発生主義会計フレームワーク

「収益-費用=利益」によって計算されます。

 

ターナーが「1枚の絵の躍動感をとじ込めた」ように、

新たな会計は損益計算書に利益という名の儲けをとじ込めることに成功しました。

 

収入・支出がfact(事実)であるなら、

収益・費用で計算される利益は一種のfiction(架空)なのです。